PCT出願の基礎知識
皆さんこんにちは、弁理士の小林です。
今日は「PCT出願に基礎知識」というテーマでお話します。
以前配信した「外国での権利化」という記事の中で、外国での権利化方法の一つとして、「PCT出願」があることをご紹介しました。
(まだ「外国での権利化」の記事をご覧になっていない方はコチラもご覧ください。)
外国での権利化方法の一つであるPCT出願について、こんな疑問はありませんか。
「そもそもPCT出願ってどんな制度なの?」
「PCT出願をするメリットは?」
「PCT出願はどんな場合に活用すればいいの?」
この記事では、そんな疑問をお持ちの方に向けて、PCT出願の概要や利用するメリットとデメリット、お勧めの活用場面についてお話ししていきます。
外国での権利化をご検討中の方やPCT出願の基本を学びたい方などは、是非参考にしてください。
目次 |
1.PCT出願とは 2.PCT出願の手続きの流れ
3.PCT出願のメリット・デメリット
4.PCT出願はこんな場合にお勧め 5.まとめ |
1.PCT出願とは
今日のテーマである「PCT出願」とはどのような制度なのでしょうか?
PCT出願は、特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)という条約に基づく国際出願のことです。共通書式による一つの出願をすることで、PCT加盟国のすべてに出願したものとして扱ってもらえる非常に便利な制度です。
PCT加盟国は、令和3年2月現在で153か国です。国別に出願をする場合には153カ国のそれぞれに手続きをしなければならないのに対し、PCT出願を利用した場合には一つの出願で済むわけですから、利用価値が高いのはお分かりいただけると思います。もちろん、153カ国に出願をすることは実際にはありませんが、5カ国程度であっても同じことが言えると思います。
ただし、気を付けなければならないことがあります。PCT出願はあくまでも「出願」という手続きを一本化するもので、PCT出願をしたからといって全条約加盟国で権利化されたわけではないということです。イメージとしては、PCT出願は出願日を確保するための仮の出願のような位置づけで、実際に権利を取得したい国に対しては、後日「国内移行手続き」と呼ばれる手続きをとらなければなりません。国内移行手続きをした後は、移行先の各国で特許性の審査が行われ、特許性が認められるか否かが判断されます。
つまり、PCT出願は「出願」という手続きを一本化するための制度で、権利化の一本化をするものではないということです。巷でよく聞く「世界特許」なるものは存在しません。権利はあくまでも国ごとに認められるもので、権利化希望国で権利を取得するためには、「PCT出願」と「国内移行手続き」が必要だということを覚えておいてください。
2.PCT出願の手続きの流れ
次にPCT出願の手続きの流れについて見ていきましょう。下に示すフローチャートは、PCT出願から各国への移行手続きまでの流れを示すものです。
国際出願
国際出願とは、国際的に統一された願書を提出する手続きです。日本企業の場合、国際出願を日本の特許庁に手続きを行うことができます。日本の特許庁の代わりに、国際事務局に手続きを行うこともできます。国際出願時には、送付手数料や調査手数料、国際出願手数料を納付します。
国際調査
国際出願をすると、国際調査機関によって「国際調査」が行われます。国際調査によって、出願された発明に関連する先行文献の有無が調査されます。国際調査の結果は、国際調査報告書と呼ばれる書面で通知されます。
国際調査報告書には、関連のある文献とともに各文献のカテゴリーが示されます。カテゴリーというのは、各文献が出願された発明とがどのような関係の文献であるかを示す分類のことをいいます。
具体的には、文献ごとに「A」「X」「Y」などのカテゴリーが明示されます。「A」「X」「Y」の各カテゴリーの意味は、概ね次の通りです。
A:一般的な技術水準を示すもの
X:その文献だけで発明の新規性又は進歩性が否定されるもの
Y:その文献と他の文献の組み合わせによって発明の新規性又は進歩性が否定されるもの」
国際調査報告書が送られてくる際には、国際調査期間が作成する「ISA見解書」と呼ばれる書面が一緒に送られてきます。ISA見解書とは国際調査機関によって行われる仮の審査結果が示された書面で、出願された発明について「産業上の利用可能性」「新規性」「進歩性」の要件を満たすか否かの見解が示されます。
ISA見解書に拘束力はなく、出願された発明の特許性の有無は移行先の各国によって判断されます。とはいえ、出願人からすると、仮の審査結果をみた上で移行国を決められるという点で大きなメリットがあるといえます。
ISA見解書において特許性が否定されるような見解が示された場合には、各国への移行手続き前に手直しをするなどの対応が可能です。ISA見解書を受け取った際の対応については、別の機会にお話します。
国際公開
国際出願をすると、出願後18ヶ月(1年6月)経過時にその内容が公開されます。これを「国際公開」と言います。国際公開されると、発明の世界中の人々が知りうる状態になります。
国際予備審査
国際出願については「国際予備審査」を請求することができます。前述のISA見解書において、特許性を否定されたような場合、19条補正によって権利範囲を修正することができます。しかし、19条補正された内容について、自動的に審査されることはないため、補正後の内容について特許性が認められるものであるか否かの判断を受けることなく、各国へ移行することになります。
3.PCT出願のメリット・デメリット
PCT出願のメリットとデメリットは次のとおりです。
メリット
- 一つの出願で条約加盟国のすべてに出願したことになる
- 日本語で手続きをすることができる
- 各国への移行前に仮の審査を受けられる
- 原則30か月の移行期間を確保できる
デメリット
- 非加盟国での権利化には利用できない
- 国際出願の分だけ費用が掛かる
4.PCT出願はこんな場合にお勧め
PCT出願は、外国での権利化を希望する場合には非常に有用です。特に、次のような場合には、PCT出願をしておくのがオススメです。
こんな場合にお勧め
- 複数国以上での権利化を望んでいる場合
- 外国展開を検討中であるが、具体的な国を絞りきれていない場合
複数国で権利化を希望の場合は、翻訳文の準備期間の確保や費用発生時期をずらす観点などから、PCT出願を利用するのがお勧めです。国別で出願をする場合、日本での出願日から1年以内に全ての権利化希望国の言語の翻訳文を作成し、各国での手続を完了する必要があります。翻訳文の作成には時間もかかりますし、権利化希望国の数が多ければ多いほど時間的な余裕がなくなります。また、1年以内に複数国分の手続き費用を支払う必要があるため、費用発生時期の分散が難しくなります。
PCT出願をすれば、原則30ヶ月の移行期間が確保できるため、翻訳文作成の時間を十分に確保できますし、移行時期をずらすことで、費用発生時期を分散することができます。このため、複数国以上での権利化を望んでいる場合には、PCT出願を利用するのがお勧めです。
次にPCT出願をお勧めしたいのは、いくつかの国で事業を行うこと決まっているものの、権利化希望国を確定できていない場合です。将来的な可能性を確保できるという意味でPCT出願はお勧めです。国別に出願をする場合、日本での出願後1年を過ぎると、その後の権利化は非常に難しくなりますが、PCT出願をしておけば、原則30ヶ月は権利化の可能性を残すことができます。
5.まとめ
今日は「PCT出願の基礎知識」というテーマでお話をしてきましたが、イメージは掴んでもらえましたか?
近年、当事務所でもPCT出願をはじめ外国での権利化のお手伝いをする機会が増えており、ノウハウも蓄積してきております。ご要望がある場合には、JETROや東京都中小企業振興公社の外国出願助成金事業の申請書類の作成にもご協力しています。外国での権利化をご検討の方はお気軽にご相談ください。
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